だしにおける『うま味』とは?


世は「グルメ時代」とも言われ、食べ物のうまい、まずいが今ほど問われている時代はないかもしれません。では「うまい」とはどういうことでしょうか。

(1)美味いということ。

以前大阪に「五味八珍」という有名な串かつの店がありました。私達日本人にとっては味と言えば「五味」が普通です。すなわち、「塩からい」「甘い」「酸っぱい」「苦い」「うまい」の五味です。ところが、味は国によってその構成要素が異なります。欧米では「四原味」となります。有名なヘニングの味の正四面体というのがあります。「うま味」がないのです。

中国では、うま味の代わりに「辛味」が入って五味となります。インドでは渋味、辛味、淡味、腐敗味を加えて「八原味」としています。
面白いことにヘニングは、渋味と辛味を味覚でなく触覚だとしています。「辛い」は舌への痛覚であり、「渋い」は舌のたん白質の収縮感であるとしています。

われわれにとっての「五味」は、五感の全てを動員して感得されます。

 
  • 視覚―形、大きさ、色、つや
  • 嗅覚―香り、匂い、こげ臭、薬味の香り
  • 触覚―硬い、軟かい、弾力性、温冷
  • 聴覚―カリカリ、バリバリ、サクサク
  • 味覚―甘味、酸味、苦味、塩味、旨味

味は、味わうときの私達の健康状況に大きく左右されることは、もちろん(・・・・)です。例えばカゼをひいて嗅覚を失っているときは味が分からなくなります。しかし、一番重要なのは舌による味覚です。舌は表面がざらざらしています。これは乳頭というごく細かい突起でおおわれているためです。この乳頭にある味蕾とよばれる小さな細胞群で私達は味覚することになります。また、舌面の場所によって、味覚に差があります。砂糖は舌先でなめ、ビールの苦味はのどごしで味わうのは日常的に経験しているとおりです。

(2)うまい味ということ。

日本人特有の「うま味」とは何でしょうか。
これには数千年の歴史があり、すなわちコンブ、カツオ節、椎茸の味です。
日本人くらい海藻を食べる民俗はいないと言われています。四方を海にかこまれており、四季おりおりの海藻を食して来たのです。奈良時代の東大寺正倉院文書には次の種類が記されています。
ワカメ、アラメ、ミル、アオノリ、フノリ、ホンダワラ、ヒジキ、モズク、などです。中でも代表格はコンブで、太古から蝦夷が採食しており、昆布という字も、アイヌ語のコムブの音訳とされています。
コンブのうま味の中心が、「グルタミン酸ナトリウム」であることは、一九〇八年、池田菊苗博士によって発見されました。池田博士は湯どうふなどにつかうコンブだしのうまさに着目し、その成分をとり出すことに成功したのです。当時コンブ一〇貫匁(約三七.五kg)のグルタミン酸を分離し、そのナトリウム塩にうま味のあることを発見したのです。このグルタミン酸ナトリウムは後の「味の素」となります。
コンブを原料とした時代の「味の素」は非常に高価なものでしたが、現在は糖蜜を原料とする発酵法により製造されるようになって、価格の安いものになっております。
「目には青葉 山ほととぎす 初がつお」。俳句にも有名なカツオは縄文時代すでに食べられていたことは貝塚の出土品などによっても知られております。カツオはカツオ節として保存され、調味料として使用されました。
カツオ節の製造は、一六七四年(延宝二年)紀州の漁師甚太郎により創案されたと伝えられております。カツオ節のうま味の中心は「イノシン酸ナトリウム」にあります。この発見は一九一三年、池田博士の高弟である小玉新太郎博士によってなされました。グルタミン酸のうま味が見出されてから五年後のことです。
天然物中のイノシン酸の分布については、カツオ、カツオ節、サバ、カタクチイワシなどには多く、グチ、スルメ、などの白身の魚肉には少ないようです。
イノシン酸ナトリウムは工業化が困難で、商品化されたのは発見に遅れること四〇年余一九六〇年のことです。
シイタケのうま味成分が「グアニル酸ナトリウム」であることがわかったのは比較的新しく一九六〇年のことで、国中明博士の研究によるものです。グアニル酸ナトリウムの味はイノシン酸ナトリウムの味と殆ど同一ですが、呈味力はその二倍位あります。
私達のうま味の基本はコンブ、カツオ節、シイタケにあることは、日常的によく知られているところですが、それぞれの抽出された化学物質を混合すると呈味力が増加することが発見され「味の相乗作用」とよばれております。
私達は、日常的な食生活の中で、これらを単体として、あるいは組合わせて基本調味料として、長らく使用して来ている訳ですが、それが正しい方法であることが科学的に実証されたことになります。

(3)むすび

うま味の歴史は庶民の生活の知恵から生み出された無数の創意工夫の歴史でもあります。昆布のグルタミン酸ナトリウム、カツオ節のイノシン酸ナトリウム、シイタケのグアニル酸ナトリウム。それら全てが日本人によって発見され工業成品化された事実の中にも、われわれ日本人の食生活の創造性と特異性を見出すことが出来、世界に誇りうるものということが出来るでしょう。
(日本食品工業会長 中西久夫・記) 

【平成3年6月20日発行 ひと粒VOL.11より抜粋】

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